基準撮影法(NPO精管構の基準撮影法(案))ドラフト版抜粋

基準撮影法(案)は、平成20年11月15日開催予定の理事会で詳細に報告予定です。
報告後、小冊子として発刊を予定しております。

目次

1.はじめに

2.基準撮影法の概要

3.基準撮影法の検査手順

1. はじめに

 胃がん検診の最終的な目的は、胃がん死亡率の減少ないし胃がんによる死亡リスクの低減を図ることにあり、その目的を達成するには、科学的根拠に基づいて死亡率減少効果が認められている検診法を、しっかりとした精度管理の下に、正しく行うことが重要とされている。 2006年、厚生労働省がん研究助成金「がん検診の適切な方法とその評価法の確立に関する研究」班から発表された「有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン」1) によれば、現時点で科学的に有効性が証明されている検診法は、唯一X線検査のみとし、対策型検診及び任意型検診への実施が推奨されている。胃がん検診において、X線検査が如何に大きな役割を担ってきたかを示す結果であり、さらに有効性評価の推奨レベルを上げるには、一層の精度向上と精度管理に向けた取り組みが必要であろう。 NPO日本消化器がん検診精度管理評価機構(以下、NPO精管構)では、受診者がどの地域でどの検診施設を受診しても、安心し納得できる質の高い検診を提供できるよう、まず撮影法を標準化・統一化し、次のステップとしてそのX線画像の評価・管理体制の構築に動き出している2)3) 。 すでに2002年には、日本消化器集団検診学会(現:日本消化器がん検診学会)から胃X線検査の標準化について最終答申4) がなされている。2005年には日本消化器集団検診学会 (現:日本消化器がん検診学会) から、新・胃X線撮影法ガイドライン5) が刊行されており、対策型検診では、新・胃X線撮影法が普及し、標準化が進みつつある。 これに対して、任意型検診では、造影剤や発泡剤などの撮影器材ならびに撮影体位や順序がまちまちである。中には、老朽化した機器が用いられていて低画質のX線像しか提供されないこともある。受診者の信頼が求められる検診において、画像の質が不均衡な状況は好ましいこととは言えない。明快なコンセプトのもとに、基準となる撮影法を組み立てて公表し、普及させることが、NPO精管構の重要な役割である。

 このような気運の中で、2006年9月から主に首都圏のX線検診従事者が参加し、統一化・標準化を目指す撮影法についての検討が開始された。
 翌2007年からは茅場町コンセンサス6) と称してミーティングを開催し、精度向上に寄与できうる撮影法について議論を深めた。勿論、これまで蓄積された胃X線診断学に基づいて検査を行ってきた施設や撮影者には色々な考え方があり、造影剤の質と量をはじめ、撮影の手順、撮影体位や体位変換法のひとつひとつに議事が紛糾した。
 しかし、一貫していたのは、これからの精度管理の基盤となるとともに、一定の画質が得られる撮影法をまとめたいという信念であった、このような経緯を経て、NPO精管構運営委員会に設置された基準撮影法のマニュアル作成作業部会で検討され、2008年9月の運営委員会で承認されたものが、ここに述べる基準撮影法である。

2. 基準撮影法の概要

私どもの調査によると、対策型検診では胃部8体位の二重造影、任意型検診では胃部12~16体位(曝射)の二重造影に食道撮影と胃部圧迫撮影を組み合わせた撮影法が一般的であった。
 この中で、任意型検診における問題点は、検査時間や撮影枚数の制約が少ないことから、施設や撮影者個人の裁量が反映されやすく、撮影法に差異が認められ、結果的にX線画質のばらつきが見られやすいことにあった。同様の指摘は、以前からなされており、各方面から撮影法を基準化する必要性が唱えられていた。
 施設内直接X線検査の基準化を目的に開催された「茅場町コンセンサスミーティング」でも、検診精度の向上に寄与するには、まず対策型検診、任意型検診の両者において整合性のある基準撮影法が求められるとの認識で一致していた。
 本基準撮影法は,胃癌X線検診の精度指標のうち、画質の安定と更なる向上を目的に規定したもので、必要かつ最小限の体位(数)で組み立てた簡明な撮影法である。
 造影剤・発泡剤の種類や量とともに体位と手順を基準化した。検査薬剤には,200~230W/V%、150ml前後の高濃度・低粘稠性粉末造影剤および5.0gの発泡剤を用いる。
 上部消化管の造影検査法には様々な方法があるが、胃部二重造影法および胃部圧迫撮影法、および食道二重造影法を主たる撮影法とし、撮影体位は被写体自身がとる曝射時の体位として表現し表記することにした。
 図2に被写体を尾側方向から眺めたシェーマを示す。



 なお、軽い斜位角度とは0°~30°程度,強い斜位角度とは60°~90°程度のものとみなすことにした。
 一方、これまで透視台の傾斜角度については、立位、半立位、半臥位、(背・腹)臥位の用語で表現されることが一般的であったが、実際に傾斜角度を規定している教本が少ないことから、その傾斜度合いが施設・撮影者間で著しく異なると想定される。
 そこで、ここでは馬場ら7) の提唱する傾斜角度の表記法にならい、立位から水平位までの間(90度)を3等分し、水平位(臥位)から30度未満の角度を半臥位、30度以上60度未満を半立位とし、本作業部会では新たに60度以上90度以下を立位と定義することにした。
また本法は,検診種類や実施場所などの検査環境を考慮して、間接撮影法、直接撮影法の区別を用いず、基準撮影法1と基準撮影法2の2法で構成した。基準撮影法1は、対策型検診を目的に地域や職域検診で行われる従来の間接X線撮影、基準撮影法2は、任意型検診を目的に人間ドックや個別検診で行われる従来の直接X線撮影が主な対象となろう。近年の撮影装置のデジタル化による直接・間接撮影機器のボーダレス化に備え、算用数字で区別し呼称したのである.表1にその概要を示す。

表2には、それぞれの撮影部位および撮影体位を示した。

 基準撮影法1と基準撮影法2の両法には撮影手順と手技上の整合性があり、検診施設への普及が期待できる。
 本法で規定した撮影体位に、特定部位の撮影を目的とした体位を組み入れることも可能であるが、混乱を生じないように用語(表3)を定義した。図3に基準撮影体位、任意撮影体位での撮影と透視下観察で所見に気づき追加撮影された胃角部前壁の分化型胃癌の例を提示する。
 なお、受診者の身体的安全性の保全のために抗コリン剤(ブスコパンなどの鎮痙剤)を使用しないこととした。勿論、検診スタッフや医療設備が整備されており、検査前の診察や問診票などにより個別の対応が可能な施設においてはこの限りではない。




図3 任意型検診で発見された胃癌 (症例提供:東京都予防医学協会)

          a.基準撮影(体位) 腹臥位第2斜位二重造影像 (下部前壁:頭低位)
          b.任意撮影(体位) 腹臥位第1斜位二重造影像 (下部前壁:頭低位)
          c.追加撮影 腹臥位正面位二重造影像  (二重造影第1法)
          d.追加撮影 腹臥位正面位二重造影像  (二重造影第2法)

 基準撮影体位では、前庭部よりの胃角前壁に不整形陰影斑が描出されている。
 任意撮影像ならびに追加撮影像では、辺縁隆起を伴う不整形陰影斑と微細顆粒像が認められ、早期胃癌(分化型IIc)とX線診断された。内視鏡的切除が行われ、最終病理診断は、0 IIc、pM、tub1>tub2、25×20mm、ly0、v0、N0とされた。



3. 基準撮影法の検査手順

 受診者入退室時の会話や、体位変換を指示する際には、過度の精神的緊張をあたえ胃蠕動が促進されないように、聞き取りやすく、分かりやすい早さで話すよう心がける。
 発泡剤は、全量を20ml以下の水またはバリウムで服用し、ゲップを我慢するよう伝える。
 次に、食道が椎骨と重ならない程度の第1斜位で、バリウムを全量飲用させ、食道および噴門部を透視下に観察する.撮影の際には、食道が二重造影となり、胃入口部が開口期となるタイミングを狙う。慌ててバリウムを服用させて誤嚥しないよう留意する。観察・撮影の後には、バリウムが十二指腸に流出しないように第1斜位または左側臥位で透視台を倒す。



 胃部撮影前には背臥位から右方向への360度回転(図4)を3回行い、背臥位正面位二重造影像を撮影する。
 水平位で素早く回転すると造影効果が向上する。バリウムの十二指腸流出防止を意図し、常に頭高位で回転すると、胃上中部の造影効果が下がり、結果的に画質が低下する.
 さらに撮影体位毎に交互変換あるいは回転変換を行い、標的部位にバリウムを付着させる。体位変換から撮影までを手際よく、素早く行うことで造影効果の高いX線像が得られる.また、曝射の際には確実な息止めを指示し、呼吸ブレのない像を撮影する。


 腹臥位前壁撮影では、腹壁を圧迫するフトン(以下、圧迫用フトン)の使用を原則とする。
 後壁撮影の後、右回りで腹臥位とし,透視台を45°程度におこして心窩部を目安にフトンを敷く(図5)。
 この際には、左頬と両肩を透視台につけ、腹部の力を抜くように伝えると腹壁の緊張がほぐれ、圧迫の効果が高くなる。肩当てを下ろし、手摺りをしっかりとつかむよう伝え、安全を確認しながら頭低位とし速やかに撮影する。落下事故を防止する為に、逆傾斜角度は30度前後とし、最大でも45度までに留めたい。

 胃上部の撮影では、基準体位ごとに体位変換を行う。
 良好なバリウムの付着を得るためには、透視台を立てすぎないことと、体位変換から撮影までを手早く行うことが肝要である。圧迫撮影では,ゲップを出し腹壁の力を抜くように伝え、無理な圧迫を行わないようにする。検査終了後には、めまいやふらつきがないことを確認し、緩下剤内服のしかたなどの諸注意を伝える。
 検査全般を通じて、溜まり像、はじき像、粘膜ひだの走行を透視観察する。
 的確な観察には、X線診断学の習得が必要となる。異常所見を発見した時は、追加撮影を行い所見の性状を明らかにする.特に腹臥位前壁撮影や胃上部撮影では、体位変換中に造影剤の流れが観察しやすい。